わらわら図鑑第五回[1998年10月26日]
正直先生presents 現代わらわら図鑑
the world of warawara
わらわらとは……数え切れないほど多くの物・人が狭い空間の中で蠢いている様

  正直先生は最近こんな事を再び考えている。
「家もなにもかも捨てて風来坊のように生きたいなあ」 なんて。
 とにかくいろんなものを持っている自分がいやになっちゃったのだ。ものに縛られている自分がいやになっちゃったのだ。
  しかし実際には、自宅があり、仕事場もあり、ガレージもあり、そこには本やら、コンピュータやら、服やら、バイクやら、結構な金額をつぎこんで買ったものがたくさんある。一番大きな買い物は自宅のマンションだけど、さすがにこれはローンである。だから今も自分の生活を守るためにお金を稼いでいるわけだ。
  しかし守るべき「自分の生活」って一体なんなのだ?  そりゃー、だれでもおいしいもの食べたり、好きな本読んだり、あったかい部屋で寝たいと思うだろう。しかし、今、自分の周りを見回してみると「一体、この本とかコンピュータとか、服とか、バイクとかは、オレが生きる上で本当に必要なのか?」なんて思ってしまうのだな。そのことを突き詰めて考える。じいっと考える。
  なあんにも必要ない。自分の身体以外には何にも必要ない。
  本当は人間の生活に必要なものは自分の身体だけだ。そんな事を思ったら正直先生は全部を捨てて、家も捨てて、物も捨てて、旅に出たくなった。
  しかし世の中の人は何を守ろうとして生きているんだろうか。今回はそんなわらわらを見つけてしまった。

1 新興住宅わらわら


 これは東京ディズニーランドのある舞浜の、新興住宅地である。なんだか正直先生はここに足を踏み入れた時、おもちゃの街に迷い込んだような気がした。だってみんな同じような家なんだもん。ここに住んでいる人たちは、誠実に一戸建ての家が欲しくて、一生懸命に働いて、自分の「夢のマイホーム」を手に入れた人たちだと思う。そのこと自体はなあんにも悪くはない。実際ひとつひとつの家を見てみると、綺麗で大きな、いい家なんですよ。
  でも、それが並んでしまうとみんないっしょくたに見えてしまう。
  その同じような「夢」を実現するために、みんなお金をかせごうとあくせくしているわけです。同じようなもの(家)を同じように手にいれる(ローン)ために、同じように働く(会社)。日本ってそういう構造の国なんだよ。そして、一人一人の「夢」が、みんなと同じようなものになっていってしまう。それって怖い事だなあ、と思うんですよ。
  そしてその家さえ作れば「家庭」とか「家族」とかも幸せだと思っている人が多いわけでしょ。そんな事ないよ。家なんてボロでいいんだよ。おっかない父母と仲のいい兄弟とバカな友達さえいればいいんだって。どうして箱ばっかりに気をつかって中味を考えないのかなあ。自分の中味を。「家」なんて簡単なもんでいい、なんて正直先生は思ったりしたのでした。

2 青いビニールわらわら


これは工事用青ビニールの捨て場所ではない。上野公園で暮らす人々の住まいである。この青いビニールでテントを張るのだ。最近景気がわるいせいか、テント暮らしの人がふえている。その様はまさにわらわら状態である。  ここにいる人々がどんなひとたちかというと、いわゆる浮浪者みたいな人もいるが、中には「どうしてビニール暮らししてるんだろう?」と思うような人も結構いる。多くの人がこざっぱりした格好をしているし、洗濯もしているみたいだし、中には夫婦で暮らしている人もいる。自転車を持っている人もいる。
  いろんな年代の人が集まっているので、若い人とおじいさんみたいな人が昼間っから地べた座ってなにやら楽しげに話し込んでいたり、拾ってきた雑誌を回し読みしたり、夜にはカップ酒で宴会を催していたりする。無一文同士なはずだから、すごく楽しげなのだ。こういう言い方は失礼なのは分かっているが、お金がなくなって、最低限の生活必需品しかもてなくなって、全てが対等になり、代わりにすごく裕福な時間を手に入れているような気がするのだ。それは三食まともに食べてふとんでぬくぬくと暮らしている正直先生になにかをつきつけてくるのだ。
「お金」というものは人と人との間に壁を作っているよなあ、と。
  しかし一方で、その周囲を歩いていると、何だかやりきれなくって悲しい気分にもなってくる。青いビニールで暮らす人々はそれぞれの事情があってそういう生活をしているわけだが、そういう人々を受け入れるだけの度量はこの社会にはあるのか? と思う。職を失い、家を失った人々はどこにも行き場がないから公園でビニールわらわらしているわけで、上のような新興住宅地だったらまず警察に通報されるだろう。自分も自宅の前にそういう人が青いビニールテント張っていたらいたら不快に思うかもしれない。オレもまだまだだな、と思う。悲しい。  これから寒くなる。生活は厳しいと思うけど、なんとかテントの人たちには春まで乗り切って欲しいな、と正直先生はうつむきながら考える。
  そんなわけでなんだか今回は「家」とか「お金」とかについていろいろ考える事が多かったのだ。みんなも何か思いついたらメールくださいな。

おまけ クレーンわらわら


  これは舞浜で今造成中の「ディズニーシーワールド」の建築現場。すごい! でっかいクレーンがいっぱい動いている! 正直先生はむやみにはしゃいでしまいました。

Copyright 1999 Koide, Hirokazu
コイデヒロカズ