わらわら図鑑第三回[1998年8月28日]
正直先生presents 現代わらわら図鑑
the world of warawara
わらわらとは……数え切れないほど多くの物・人が狭い空間の中で蠢いている様

 正直先生は今年結局夏休みがなかった。なんだか新しい事がはじまってしまい、ずうっとコンピュータに向かっていた。お盆休みの最中も横につけっぱなしのテレビで「新幹線乗車率200%、中央道の渋滞は大谷pa付近で60キロ……」とかいう画面をみながらぞっとした気分になっていた。新幹線の中にぎゅうぎゅう詰めになった人ワラワラ。高速道にぎっしりとつまった車ワラワラ。「どうしてみんなワラワラと故郷に帰りたがる……」と嘆息していたのだった。ま、故郷が東京である正直先生はそういう気持ちは決してわからない。「故郷」ってなにかなあ、って思う。
  そこに行っただけで懐かしくて温かくて新しい気持ちになれる場所が「故郷」だとしたら(実際には疲れに行くだけだと思うけど)、正直先生の故郷は「外国の田舎」であることになる。今まで行ったところエジプト、スリランカ、バリ、メキシコ……なんかはみんな故郷とよびたいところだった(フランスとかドイツはちっと違った)。非日常にひたれた。今回はその国々で見つけたワラワラを振り返ってみたくなった。なーに? 夏休みが取れなかったんで故郷気分にひたりたいだけじゃん! って批判もあろうが、まあその通りである。

1 スリランカの仏像わらわら


  写真だとスリランカは小乗仏教の国で、山のほうに行くといたるところに石窟寺院がある。ここはダンブッラというところにある石窟寺院。一見なんの変哲もない岩山の穴に入っていくといきなり……何十もの仏像が! わらわら! さらに写真だとよくわからないかもしれないがこの洞窟の天井と壁にはびっしりと仏さまの絵が並んでいるのである。となりの洞窟にはどでかい寝釈迦の像があったりとにかくこの一帯には仏さまわらわらなのだ。しかし、ここが結構気持ちいいんですよ。宗教的な場所っていうととかく厳しい空気が漂っているんだけど、ここはなんだか爽やかなエネルギーが充満している感じ。だが、こういういい空気の宗教をもった国の人が「仏教では殺生はいけないことです。でもゲリラは悪いやつらだから殺します」とか言っていたりするのだ。このわらわらの仏像だちはそんな殺生をどう思っているんだろうか? 宗教は自分がよりよく生きるためのものであって、人を不幸におとしめるものじゃなかったはずでしょ?……故郷気分でありながらちょっと宗教というものについて考え込んでしまうわらわらなのであった。

2 ケチャわらわら


バリは最近もう大流行だから、こういう光景を見たことも多いだろう。ケチャックダンスを踊っている男わらわらである。夕暮れから夜にかけてココナツオイルの炎の周りにあつまって男がわらわら「ちゃちゃちゃ」(加藤茶じゃないぞ)とリズムをとりながら徐々にクライマックスに向かっていくドラマチックな儀式である。これを見ていると単純に元気になる。「リズムのあるわらわら」って人間を元気にするなあ、と思うのだ。プラスのわらわら。たとえばオーケストラとかもそうでしょ、あとダンスグループとかいろいろ、マックスとかスピードも。それに対してリズムのないわらわらっていうとサラリーマンの通勤風景でしょ、学校の授業の光景でしょ、えーとそれから、お盆帰りの渋滞もそうだ! 結局生気がなくてリズムのないわらわらって、ブラックホールみたいに人間のエネルギーを吸い取るね。毎日通勤通学列車に乗っている人はそれだけでエネルギー吸い取られているはず。マイナスわらわら。みんなそういうマイナスな気分をどこで補充しているのかな? 正直先生はバイクでそれを解消しているけど。それともみんな自分がプラスな気分を味わったことがないからマイナスだって気がつかないのかな? そんな人はこのケチャわらわらを見てみるべきだよ。

3 おまわりさんわらわら


これはエジプトのカイロで見た、おまわりさんわらわら。エジプトはすごく面白い。国全体が遺跡みたいなもので、首都であるカイロもちょっと中心街をはずれると、もう土くれた遺跡の中に人々がわらわらいるみたいな感じになってくる。そこにねえ、なんだかおまわりさんがわらわらといるわけですよ。しかもわらわら固まって。これはすごく怖い。あのね、エジプトのおまわりさんは日本の一般的なおまわりさんよりも怖い感じがするんです。日本のおまわりさんは権力を後ろ盾にしてただいばっているようないやーな感じで怖いんだけど、エジプトのおまわりさんは目つきがもう怖いんですよ。生物本能的に「あ、すいません、かないません、僕は」って腰がひけちゃう感じ。そういう人がわらわらいるので、それは怖いの当たり前。考えてみるとエジプトではテロが起こったり、他の中近東諸国からの流入者とかいろいろいるわけで、そりゃー戦って守りぬかないと国を維持していけないのかもしれない。だからこれは必要な怖いわらわらなわけですね。現在でも怖いわらわらが街を闊歩している危険な国はたくさんあるわけで、つくづく自分の呑気さ加減にあきれたのでした。
 故郷気分を思い出したかったのに、なんだか考えること多かったなあ。故郷って日頃忘れがちな何かを思い出す場所でもあるかもしれないので、ま、それはそれでよかったのかもしれないな。みなさんは、この夏、故郷で何を思い出しましたか?

Copyright 1999 Koide, Hirokazu
コイデヒロカズ