屋上毎日第二四回[1998年1月26日]
デジタル・ヒーリング・エッセイ
屋上毎日
第二四回 大阪で未来の屋上に登るの巻

 
お正月に正直先生はバリに行ってきた。で、帰ってきたらいきなり東京は雪で風邪を悪化させ、ボロボロになりながらも先日京都・大阪に行ってきた。目的は京都でジョニーに会うためと、大阪でチャンキー松本氏率いる「青空太郎」というバンドを見るためである。まー東京から京都・大阪までふらふら人に会いにいったり、ライブ見に行ったり酔狂だなあと思われるかもしれないが、まあ実際酔狂である。正直先生は酒はのめないのだが、ま、いつもぼわーんとしているので酔っぱらっているようなもんである。  
ま、それはいいとして京都は雨だった。ホテルの窓からみた隣のビルの屋上も雨だった。


 当たり前だ。さすがのぼわーんとした先生もつらかった。しかし今回、人に会うとかライブを見たりするとかいう目的の他にすごくいきたいところが一つあったのだ。それは 「大阪の屋上に行く」ということだった。でもねえ、大阪で一番高いところなんて全然知らないのよ先生は。通天閣は前登っているしねえ。こまったー。でもきっと最近開発が進んでいるという大阪湾の近くにいけばなにかあるんじゃないかなー、と慣れない地下鉄に乗り、港を目指していると……。なんか「コスモタワー」という名称が案内図にあるぞ! なんだか未来っぽいじゃないか! しかも、地下鉄を「ニュートラム」という新しい交通システムにのりかえねばならいないぞ(また新しい乗り物が好きなのよ先生は)これまた未来っぽいじゃないか! そんなわけで先生は大阪で未来の屋上にめぐりあえるかもしれないと心躍らせつつ「コスモタワー」を目指したのでありました。  
  で着いたのが、名前を忘れてしまったけど大阪の人は「南港」(なんこう)と呼んでいる大埋め立て地商業地帯、


であった。その殺風景さといい、まだ作ってますという途中の感じといい、東京でいうと「お台場」にすごく似ているんだけど、大阪のほうが2倍くらいスケールがでかい感じがするのだ。それは何故かというとどでかい「コスモタワー」があるから。


 なんかSFに出てくるビルみたいでバカっぽいなあ。未来はバカっぽいのかなあ。その未来っぽい建物の下はこれまた未来っぽい大ショッピングモールで、大阪の人たちは、どこかに未来を探しているような感じでざわざわ歩いていた。ま、正直先生も未来を探していたわけだが。でも、なんだか未来は見あたらない。行列が出来ていたのはアイスクリーム屋だったし。
 で、正直先生はコスモタワー最上階300うんメートルのところに360度展望台があるというので一目算にのぼっていったのだった。未来はそこから見えるかもしれないなあと思った。800円はらった。
「今日はあいにくの天気で外がよく見えません」というお姉さんのたどたどしい解説をききながら高速エレベータで51階へ。そこからなんかこれまた未来な感じのエスカレーター


を登ると、いよいよ360度展望台だ。
で、外を見た。市街地の方角を見ると、確かにあまり遠くは見えない。


 未来なんてどこにもないなあ。期待していたようなメタリックでかっこいい光景なんかありゃしない。一言でいうと大阪は茶色だった。工業地帯から大阪を見ているせいなのかもしれないけど、なんだか土っぽいのだ。でも妙にいい光景。宇宙船みたいな、未来そのものみたいな大阪ドームが、ごちゃごちゃした工業地帯の向こうに見えているのはなんだか安心する光景だった。そしてぐるっとまわって遠くにうっすらと光っている水平線に明石大橋が見えたりする光景にもほっとした。


海だ。鉛色だけど、海はいつもいいなあ。でもなんだろうなあ、このほっとした感じは。未来は、土とか海とかにかなわないのかなあ。
雨の中を未来を探して疲れはてた正直先生はその展望台の真ん中にある喫茶店でチーズケーキとミルクティー


を飲みながら、きっと建物だけが新しくなってもダメなんだな、なんて思った。建物や入れ物だけが新しくなっても所詮そこで生活するのは、一歩一歩しか前にすすめない人間なんだもん。未来って、建物だけがキンピカになってかっこよくなることではなくって、人間がよりよい人間になるために自分と環境を一緒に作り上げたところにはじめてできるもんなんだよなあ、なんて思ったのだった。
 ま、そんなわけで未来未発見(ややこしい)の旅の記念に、正直先生はまたもや合成記念写真をとってしまった。


 アベックばっかりが並んでいるのに恥ずかしかった。でも、嬉しかった。こういうバカな記念写真欲望だけは、今も未来も変わらないんだろうな。そういう意味ではこの合成記念写真だけが、「未来」なのかもしれない。正直先生は、今度は家人を連れてきて、また記念写真を撮ろうとバカなことを考えつつ、未来ビルから降りていったのだった。

Copyright 1999 Koide, Hirokazu
コイデヒロカズ