屋上毎日最終回[1998年5月27日]
デジタル・ヒーリング・エッセイ
屋上毎日
最終回 正直先生海の底から屋上に出る

 
 正直先生もいつのまにか前にもまして忙しくなって、なんだか季節はいつのまにか春から初夏になってしまい、時間のたつのが本当に早いなあ、子供の頃は遊んでも遊んでも明日にはならなかったのになあ、なんて思っている今日このごろである。
さて正直先生はそんな初夏の風の中、かねてから行きたいと思っていたところに行こうと思った。
  それは「東京湾アクアライン」。
  それって今や関東圏のデートスポットになっている「海ほたる」を含む、東京湾を横断する海底高速道路のことですよ。
  いや、まあ、なんだかちょっと遅れたミーハーというか、田舎もんというか、まあそういう所もあるんだけれども、正直先生はとにかくそこに行ってみたかったのだ。正直先生がそこに行ってみたかった理由というのは他でもない、地図を見たからである。
だって、海の水色のところに点線がずっと続いている。
  考えてみたらすごいことですよ。だって海の上にいたら見渡すかぎり水なのに、その遥か下には車がぶんぶん走っているわけだから。おまけに海の真ん中にそれを作るための人工の島までつくっちゃったわけだから。今まで何もなかったところ(自然)に人間が何かを作る(人工)、そういうことで現代社会って出来てきたわけだけれども、とうとう海の底まで征服したのかあ、って感じ。
  そんなわけで行ってきました、海ほたる、じゃなくって東京湾アクアライン。海ほたるはもう途中の交通情報で入れなそうだってわかっていたのでパス。でトンネルに入りました。


  最初はね、うわー、これから海の底なんだって上から浸水してきたらどうしよう、とかいろんなこと考えちゃって、興奮してました。
  でね海の底のトンネルになった。


  ところがね、なんでもないんですよ。ただのトンネル。ただの高速。それが延々と続く。別にこれが海の底でも山の中でも同じなんです。これにはまいった。頭の上に海水があるってことは分かっているんだけど、かなり強く想像力を持たなければそんな事忘れちゃう。まいったなー。
  もういい加減トンネルに飽きて、やっと海ほたるについたらもう大混雑でなんだかいやになっちゃいました。結局みんなただトンネルとぬけて、駐車場待ちの渋滞の列に加わるためだけにここに来ているのかって。人間って馬鹿だよね。僕もきちゃったんだけどさあ。でものんびりできるところは他にいくらでもあるのに。
  しかしそこから先はすごくいい光景だった。


  周囲は海の中をただひたすら走っていく。あまり走っている車は少ないから空と道と自分、だけみたいな気分になるんだなあ。そして道がゆるやかに下りになって千葉県側がみえるところになると、


  自分が見知らぬ国にやっとたどりついたような、そんな嬉しい気分に満たされるんだな。ま、実際は千葉なわけだけど。
  なんだかそれはずうっと屋上の上を走っているような感覚なのだった。
  しかし、考えてみたら、なんでこんなもの作ったんだろうねえ? 東京湾アクアラインって巨大な無駄な感じ。とてつもなく巨大な。人間ってあらたな技術をうみだしてあれもできるこれもできる、海の底にだってトンネルは掘れる、って世の中を進歩させているような気分でいるけれど、実は全然必要ないことしているんじゃないかなあ。人間が本当に必要なものって、巨大な建造物とか道とか商品とかそういうことじゃなくって、人とお話できるとか、広い空間があるとか、空が見えるとか、虫がいるとかそういうことなんじゃないだろうか? なんか正直先生はその巨大な細長い屋上の上で、なんかもう一度自分にとって何が必要なのか考えてみたいなあ、なんて思ったのだった。
  みんなも、今、自分に何が必要なのか考えてみないか?

挨拶: 長きにわたっていろんな屋上を探訪してきましたこの連載も今回で最終回。メールとかくれた方、どうもありがとう。といっても正直先生がゴメスからいなくなってしまうわけではなくて、あらたな企画でまたみんなに会いたいと思っているわけです。そんなわけで、ではまたねー。

Copyright 1999 Koide, Hirokazu
コイデヒロカズ