屋上毎日第二一回[1997年10月29日]
デジタル・ヒーリング・エッセイ
屋上毎日
第二一回 新宿で屋上の老舗に上るの巻

 
 正直先生は新宿が苦手だ。とにかく人が多い。だからその人の流れに負けないように一生懸命気合いをいれなければいかん。気合いを入れ続けるというのは正直先生がダメなことの一つなのである。しかし新宿の裏道には、変なレコード屋とかがいっぱいある。だから苦手だけど頑張って歩いていたりするのだ。ふう。
  そんな新宿に疲れた時に、正直先生はどこに行くか。マンガ喫茶ヨムヨムというところがあるがあそこはあそこでマンガ好きであふれかえっているので、頑張らなくちゃいけないのでいやだ。伊勢丹の中のアフタヌーン・ティーに家人と入ったことがあるが、あそこは女性ばっかりなので疲れた。タカノのフルーツパーラーは結構空いていていいが、なんか綺麗すぎて正直先生の性に合わないところがある。
  そんな時、とっておきの場所がある。それは伊勢丹の屋上なのだ。


  伊勢丹といえば百貨店の老舗だ。だからというわけじゃないけど伊勢丹の屋上はすごく古典的な屋上だ。広場があり、園芸コーナーがあり、熱帯魚コーナーがある。それだけだ。西武とか東武とか松屋にある子供向けの乗り物とかゲームとかは一切ない。屋上も老舗の品格があるって感じ。ここにくると新宿の空ってすごく綺麗な事に気がつく。ビルの谷間にいると全然そんなこと思わないのにねえ。この日も夕暮れ時に伊勢丹屋上に立ち寄った正直先生は、遠くに見える新宿副都心と少し曇った秋空をみて、


少しオセンチな気分になっていた。ああ、なんか泣き出しそうだなあ。つかれてんのかなあ。
  しかし今まで園芸コーナーばっかり見ていてあんまり他を見ていなかったのだが、実はこの伊勢丹の屋上、結構広いのだ。イベント広場には舞台だってある。


  ここでゴレンジャーとかをやるんだろうか。いや、老舗だからきっと「おかあさんといっしょ」ショーとかやるのだろう。ドレミファドーナツ!とか歌うのかなあ。ちっと古いか。
  そして前に来たときには無かったもののひとつ、小さな家、


もあった。多分輸入ものの組立式小さな家で、とっても上品な感じのおもちゃだ。老舗は子供用のものにも品をもとめるのだった。その中に子供が入っていてすごく楽しそうだったので、正直先生もその中に入りたくてしょうがなかった。正直先生は狭いところに一人で入るのが凄くすきなのだ。
そんなことを見つつ、なんだか正直先生はボヤーンとした気分になっていた。
この感じはなんだろう。なんだかおじいちゃん&おばあちゃんの家に来たような感じなのだ。子供の頃おばあちゃん、おじいちゃんの家に行って、ただただ家のいろんなところを見たり、押入に入ったり、ごはん食べたりして遊んだ。そのうちそのまま寝たりしてたよなあ。この伊勢丹の屋上はそんな安心感と開放感があるのだ。
そんなことを思っていたら、本当に寝ている人がいた。


 気持ちよさそうだった。正直先生も寝たいなあ、と思ったがなんとなく誰かに暖かく見守られているようだなあ、と思って寝にくい。実はアベックが隠れたところにいくつかいたので恥ずかしかったのだが。
で、また歩き回っていたらその見守っている人が、屋上のスミにいたのだ。それは伊勢丹の創業者、小菅丹治さんの銅像。


 ううむ、このおじいちゃんがいるからこの屋上は安心なのね。そしてその隣には朝日弁財天があった。


 なんとなくこの心地よい屋上のお礼がしたくて、お賽銭をあげようとしたら賽銭箱に「修理中」と貼ってあってお金をいれられなかった。ううむ。賽銭箱も故障することがあるのかなあ。
 おじいちゃんの家と屋上の老舗。じわじわと心のエネルギーを回復して、正直先生はまた新宿の街に降りて、頑張って歩き始めた。

Copyright 1999 Koide, Hirokazu
コイデヒロカズ