屋上毎日第二十回[1997年9月26日]
デジタル・ヒーリング・エッセイ
屋上毎日
第二十回 正直先生大阪の屋上に登るの巻

 
 正直先生は先日、またもや京都・大阪の旅に出た。なにが目的かというと前々から応援している反重力ロックグループ・ジョニーのライブを見にいったのであった。関係者の人が「おそらく東京からきているのはこの会場でコイデさんだけですよー」とかいうので、なんだかおれってバカなのかなーと思ったりした。家にかえって家人にそのことを話したら「もうほとんどジョニーのおっかけだもんね」とか追いうちをかけられた。あははっは。  
それでその晩はこれまた前からおっかけている元モダンチョキチョキズのヌルピョンの家に泊めてもらい(ヌルピョンありがとう)、翌日は大阪に行ってモダンチョキチョキズの矢倉さんに大阪案内をしていただいた。それにしてもモダンチョキチョキズな週末だったなあ。  矢倉さんまかせにタクシーに乗り、小雨まじりの大阪を走った。どこへいくのか聞かずにタクシーをおりたら、そこは通天閣で有名な新世界だった!


 いやー私の高い所好きをどこで知ったのだろうか? もしかしたら高い所好きは無言のうちに伝わっているのかもしれない。ううむ。  
  で、まずおいしいご飯と甘みを食べ、通天閣タワーの下にある通天閣歌謡劇場で演歌に感動し(この感動の模様はAOLのTOKYO ZINE「お茶の水高等有線学校」に書きましたので、読める人は読んでください)、そこから出る時におずおずと私は言ったのです「あの、通天閣に上りたいんですけど……」。「あ、はじめてですかあ? よーし登りましょう!」やったー! 通天閣の下がこれだけ面白いのだから絶対上は面白いに違いない! これで新世界の屋上は俺のものだ!(何をいってるんだか)
  でね、登ったんですよ、通天閣タワー。だけどね、京都タワーに比べると、すこし猥雑さは少ない感じだった。


 もっとなんだかごちゃごちゃしたものを期待していたんだけど。でもタワーの上から見る新世界はごちゃごちゃだった。


  周囲がごちゃごちゃだからタワーの中まではごちゃごちゃにはしなかったのかな。 そして通天閣の上に登りたかった目的の一つ「ビリケン」にも会った。


 みんなさわっていたりしてすごく愛されている感じ。こういう神様ってあまりいないんじゃないかなあ。東京でいえば、巣鴨の地蔵通りみたいなものかなあ。でもあそこはおばあちゃんばっかりだからちょっと違うかな(私はよく行くけど)。
 でもねえ、なんだか物足りない。  
 なんかいつもなら高いところに登るとすごく狂喜するのに、今回はなんだか盛り上がらない。そこそこは感動しているんだけど、今一歩。なんでだろうなあ。
  で、下に降りたんですよ。そしたらいきなり感動が戻ってきた。いきなり110円の何が入っているんだかわからないジュースを飲んだ。僕はオレンジジュースを頼んだんだけどなんだか塩っぽいの。東南アジアよりすごいショック。将棋場には何やっているんだかわからない人がいっぱい将棋をさしてて、矢倉さんが「ここの窓際にはいつも女装をした年配の方がすわってたんですよ。亡くなったみたいでもうここにはいないけどね」とか説明をしてくれた。将棋場にもドラマがある。そして頭の上にはふぐもある。


  いろんなところをただ歩いて狂喜して落ちついて、それでなんだかやっと通天閣では屋上にあまり感動しないのかわかった。だって空の上よりも下の新世界のほうがパラダイスなんだもの。さらに地下の通天閣歌謡劇場ももう桃源境のようなところなんだもの。そう、ここでは屋上が地下にある。逆転しているんですよ、大阪では屋上と地下の気分が。  つくずく正直先生は大阪の街がいかに東京と違うかを思いしりました。でも不思議に気持ちいいんですよねえ、大阪は。正直先生は美女(?)にもまれていい気分になっている看板のおやじのように「気分さわやか」になりながら、雨のはげしくなった新世界をまた、歩きはじめるのでした。

Copyright 1999 Koide, Hirokazu
コイデヒロカズ