屋上毎日第十八回[1997年7月27日]
デジタル・ヒーリング・エッセイ
屋上毎日
第十八回 日本で一番混雑している屋上の巻

 
  最近正直先生は東京お台場へ夜中行くことが多い。といっても仕事でいくわけじゃーなくて、ただバイクに乗って人気のない海の夜景を見に行っているだけである。というとカッコいいみたいなんだが、なかなか慣らしの終わらないバイクで、スクーターに「バーカ」って感じで追い抜かれてもひたすら我慢しながら走っている日々なのだ。
前にもお台場の事はこの屋上毎日でも書いたけど、今もそのどこの国でもない、取り残されたような場所の感じはなかなか捨てがたいんだな。この前なんか夜、船の科学館近くにいったら5、6人しかいないビヤ・ガーデンで、一人のギター引きがむなしくボサノヴァの生演奏していました。やることないから「そっちのお二人、雰囲気のいいカップルですねー」なんて客いじりをしてました。頭上には羽田空港におりる飛行機がひっきりなしに「ゴー」って降りて行くし。あーたまらない。東京でこんなひなびた夜が味わえるのはお台場だけです。
でもそれも夜だけだ。
昼間はもう人出が凄くて、前に紹介したような「お台場全部が屋上」みたいな寂しさはないんですな。なんでもゴールデンウイークには人出がディズニーランドを抜いて観光地第一位だったというしね。みんなお台場のどこを目指してくるのか? それはね、フジテレビジョンですよ。


 ううむ。
 なんだか「寂しいお台場」ファンの私にとっては目の敵のようなフジテレビなんだけど「フジテレビには吹き抜けがあって、そこが屋上のようになっている」という話を聞きつけ、ではまず敵情視察、とのこのこ車で(バイクじゃないのよ)出かけました。  しかし行った日がまずかった! フジテレビが明日から27時間テレビをひかえた「オダイバ・ド・ド・ン・パ」っていうイベントの真っ最中だったのだ! イヤになるくらいの人・人・人! あーあ。  それでなくても人混みが嫌いな正直先生は、各県の名産展をやっている広場の命からがらくぐりぬけ(大げさだ)チューブエスカレーター


に乗り込んだ。なんだか形がモスラの幼虫みたいでいいなあ。これで人混みを抜けた疲れも吹っ飛びますわな。子供みたいだけど。
そしてビルで言うと7階部分、吹き抜けの屋上部分に辿りついた。そしたらそこはなんと……ただのビヤガーデンだったのだ……。


しかしあまりビヤ・ガーデンに人はいない。人はというと「展望台に行くエレベータはどこ?」とか「フジテレビショップは?」とかいいながら帽子をかぶり、カメラをぶら下げて、その屋上部分を右往左往しているのだ。なんてせわしない屋上なんだあ! そしてふと脇をみると延々と行列が。


そして頭上を見上げると、人々が行列を作ってでも登りたがっている丸い展望室が。


 実はここからでもすごく景色はいいのだ。しかし人はそんな景色を味わうこともなく、上へ上へと登りたがる。
もっと余裕を持てよな。
久しぶりに正直先生は怒りたくなった。こんな、日本で一番混雑している屋上に来てしまった正直先生もバカなのだが、それにしてもみんなバカだ。なんか悲しい気分になりながら、とぼとぼその吹き抜け屋上から階段で降り始めると、途中にはプリクラがいっぱいあってみんな貪るように自分たちの写真を撮っていた。


 自分達の写真を撮るより風景とか花とかを撮ればいいのになあ……。
なんだかなげやりな気分になった正直先生は、もう帰ろう、と思った。日本一混雑している屋上って、もはや屋上じゃなかった。それはそれでいいのかもしれないけど、どうして人ってたくさん集まると、自分の欲望しか考えない風になってしまうのだろう。正直先生はすくなくとも、屋上に登ることで日常から離れてなんだかぼんやり大きな空想ができるんだけどな。
 先生はもうイベントの喧噪から離れたくて、逆方向に足をむけた。テレコムセンターの向こうに飛行機が飛んでいて、悲しくなるほどいい風景だった。


 うん、こういう風景に出会ったのだから元気ださなくちゃ! と思ったのもつかの間、台風の野郎の影響で土砂降りが来た。べちょべちょになってシオシオになってとぼとぼ歩きながら、くそーオレは負けないぞー、と意味もなく思った。

Copyright 1999 Koide, Hirokazu
コイデヒロカズ