屋上毎日第十七回[1997年6月26日]
デジタル・ヒーリング・エッセイ
屋上毎日
第十七回 正直先生横浜マリンタワーのエレベータに驚くの巻

 正直先生は東京生まれの東京育ちの東京生活者である。横浜は隣だ。隣なのにあんまり行ったことがない。「旅に行く」という感じにしては近いし「ちょっと遊びに行く」いう感じにしては遠すぎるし、とにかく中途半端な距離なのである。しかし高校時代彼女と授業を抜け出して、なんだかしらないが外人墓地あたりを歩いていたこともある。うわー恥ずかしいような行為だなあ。もうそんなことはしないので許して欲しい。
 というようなことはともかく、まあ横浜に行ってみた。「ポンペイの壁画展」というのを横浜美術館に見に行ったのである。ご存じかどうかしらないが正直先生は大の遺跡好きなので「遺跡もの展覧会」となるともういてもたってもいられないのだ。まあそれはいいとして横浜美術館の入り口を出て上を見上げてみたら「まあ、そこにいらっしゃったの」(急におばさん口調になるな)という感じで横浜マリンタワーがあった。


こうなると登りたくなるのが人というものである。そうでもないか。横浜の屋上というものをマリンタワーから見おろすというのもまあ悪くはあるまい、ということですすすすと展望階へと登るエレベーターへと向かった。お金をはらうんだね1000円も。ううむ。で、乗りましたエレベーター。  早い! 早い! エレベーター! 69階273メーターまでたった40秒!  びっくりした。一緒に乗っていたサラリーマンも「はいぇーなあ」と思わずつぶやき、他の同乗者も「おお」とどよめいたぐらいすごく早い。あとでパンフをみたら世界最高速なんですってね。でも「エレベーター世界最高速」って価値があるんだかないんだかわからないなあ。誰か表彰してくれるのかなあ。おもしろかったけど。  しかし展望台に登ると待ちかまえていたのはマリンタワーマグカップ、


とか記念撮影台、


とか「赤い靴下」、


とかのなんかへんに凝った思い出グッズで、そういうところはどこも変わらないのだった。京都タワーもそうだったしなあ。昔メキシコに行ったときも正直先生はメキシコシテイタワー(正式名称は別かもしれない)に登ったが、やっぱりなんだか訳のわかんないおみやげ売ってたよな、確か。世界共通なのだな、こういうものは。そのうち「世界タワーおみやげブック」みたいなものをつくろうかな? と一瞬考えたが、そんなもん自分以外誰も買わないのですぐ諦めた。
  そんな風にぶらぶらしながら下を見おろすと、あったあったありました屋上が。となりは確か横浜銀行の本店ビルじゃないかと思うんだけど(違ってたらごめん)、そこの屋上はなんとヘリポートだった!


 社長さん、じゃない銀行だから頭取か、そういう人がヘリコプターでここに乗り付けるのかなあ。しかし上から見るとほんとうに簡単な柵しかない場所で、なんだかその上に乗るのはすごく怖い感じがする。ま、正直先生なんかは一生ヘリコプターで移動なんかしないだろうから平気だけどさっ。
  しかしなんだろうなあこのマリンタワー展望階は。意味があるんだかないんだかわからない場所なんですよ。大体人はなぜ展望階に登るのかな。高いところの景色が見たいから? 僕の場合はそうなんだけど、「じゃどうして高いところからの景色がみたいわけ?」と聞かれると明確には答えられないのだ。いつもと違う風景が見たいから、ということもあると思うけどそれなら海でも地下でもいいわけじゃん。
 やっぱりね、人間ってなんだか「垂直の意志」があるような気がするんだな。空に近いところに行きたいという。重力に引っ張られて、地球に縛り付けられている人間の深いところからの願いのような気がするなあ。考えてみれば僕は今273メートルの空に舞い上がっているわけだ。真剣に考えるとすごい気がしてきた。空はいいなあ。空はいい。
そんな事を考えている間に展望階もおしまいになった。舞い上がっておみやげも買った。小さなタワーができる組み立てマリンタワーだ。


 こんなもの買ってどうするのか。きっとまた部屋のスミに積まれてしまうぞ。舞い上がりついでにマリンスカイフォトまで撮ってしまった。マリンタワーと自分の写真を勝手に合成してくれるやつだ。


 となりは正直先生妻だ(初公開)。何がそんなにおかしいのかこの二人は。  でもおかしかったんだけどね。

(追記)わかっている人はわかると思うが私がしきりに本文中で「マリンタワー」と読んでいるのは実は「ランドマークタワー」である。インターネットゴメス掲載時には編集の河村さんの指摘でちゃんと「ランドマークタワー」となおしてあった。ま、思いこみ間違いをしたというバカな例なのでそのまんま載せてみた。(1999.2.15)

Copyright 1999 Koide, Hirokazu
コイデヒロカズ