屋上毎日第十五回[1997年4月28日]
デジタル・ヒーリング・エッセイ
屋上毎日
第十五回 正直先生京都の屋上に登るの巻(前編)


 正直先生はなぜか京都好きである。大学を選ぶ時もそれが京都に住みたいという理由で京都のある大学を受けたし(落ちた)、考えてみたら高校生の時からずっと、年に数回は京都に行っている気がする。なにがそんなに好きなんだろう。なんとなくねえ、すごく「極楽」を感じるんですよねえ。こういったら京都の人に怒られるかもしれないけど、すごく浮き世ばなれしている感じ。
 で、不思議なことに京都出身で仲がいい人も、浮き世ばなれしている人が多いのである。昔はみうらじゅんさんもそうだし、タナカカツキ氏も確か京都の大学に行ってたし、ヌルピョンは京都・嵯峨野の生まれだし。現・京都在住のジョニー・コージなんて本当に浮き世から宙に浮いて「逆さ吊り」になって演奏してるし、もうみんなどこかこの世から切れている。
 それはそうとジョニーのコンサートがあるというのでちょっくら京都に行って来た。今回の京都行きの目的はコンサートの他に、もちろん「京都の屋上探し」だ。そうきたら誰もがまずおもい浮かべるだろう。ずばり(なにがずばりだ)「京都タワー」である。


 正直先生は何十回も京都にいっているくせになんとまだ「京都タワー」に登ったことがなかったのだ。なんかそういう「観光名所」みたいのを嫌ってたんだよなーなに意地はってたんだろうなー、とか思いながら、770円を払い、エレベーターに乗ってビルの上まで行き、さらにエレベータに乗ってタワーの上まで登った。


 うわー高い! 確かにここは京都の屋上だなあ。晴れていたから風景も綺麗で、とっても浮き世ばなれした感じ。ここは「あの世」か、天国か。
その浮き世ばなれした感じを増強してたのがコンピュータ手相占いの横に貼ってあった看板だ。


「指の開き方にも性格が出る」っていうのね。僕は小指の開きが強いんです、少し。すると「自由を束縛されると抵抗の特に弱い人」ってこと? ううむ、確かにだめだなあ。会社勤めできなかったしなあ。しかし京都の屋上で手のひらをじっと見ているとは……。(小林一茶じゃないぞ)何だか変な感触だったが、ここは「あの世」なので仕方がない。ついでにいうと「あの世」ではシャ乱Qとキンキキッズと安室奈美恵が人気みたいだった。


 なんだかすごい場所だったなー、疲れたなーということでタワーを降り、展望レストランで貴船そば定食


を一人で食べ、ああ、これでやっとあの世から「この世」に戻れるなあ、と思って階段をすたすた降りたら、あー!今度は地獄が!


 そのフロアは京都の四季の歳事をジオラマ&人形で見せてくれるんだけど、いやーアナクロいのなんのって。2月は鬼だから節分なんだよね、きっと。その他4月には都おどりの娘さんたちとか、秋にはかぐや姫(だと思う)とか、もうこれでもかこれでもかと人形が置いてある。でもいずれも薄暗くて、暗闇の中から出てくるって感じなんだよ。私は天国から地獄へ落とされたのかと思いました。ちょっと怖いです。最後には一休さんが待っていたし。


 凄いぞ京都タワー。このタワーってタワー部だけで世界が完結してるんだな。上が天国で根本の部分が地獄。すると、私たちが住んでいる「この世」っていうのは上に行ったり下に行ったりしている「エレベーター」の中だけってことかあ。究極の「屋上」ってやっぱ天国ってことなのかなあ、なんてなんだか深い思索にとらわれて、正直先生はタワー部から出ました。  そしたら、あれ? ビル部の上にも小さな屋上があった。そこはゲーム機とか乗り物が少し置いて有るんだけど、すごく俗っぽくて、いい感じだった。日当たりのいいそこではモヒカンの若者が二人昼寝していて、


こういうことこそが本当の「極楽」だよなあ、僕も昼寝したいーなんて思ってビルを出た正直先生なのでした。

Copyright 1999 Koide, Hirokazu
コイデヒロカズ