屋上毎日第十二回[1997年1月27日]
デジタル・ヒーリング・エッセイ
屋上毎日
第十二回 
西表島の屋上に登ったー屋上八重山諸島版其の壱ー


 先月「ペルーに行ってくるぞ!」と宣言して、そうだ、これで南米の屋上が見れるに違いない! と思っていたらなんと出発を明後日に控えた12月30日「外務省の観光自粛勧告が出たので、主催旅行はとりやめたいんですけどお……」と旅行会社から連絡が入った。もちろんあの「日本大使館人質事件」の影響なんである。えーええー! なんだっていうのおー明後日なのにいー! なんだか気分が萎えた先生は、ペルーはキャンセルしちゃったのだ。悔しいよお。  
  でもねえ。お正月は旅だあ! と思って盛り上がっていたのに気持ちは収まりつきません。くそーこうなったらどこかにいってやるうー、と思ってコイデ妻さんと協議した結果、「石垣島に行こう!」ということになったのだった。  
  で、1月1日にはもう石垣島にいた。早い。東京はダウンを着てちょうどいいくらいの気候だが、石垣島はセーターを着ていたら暑い。Tシャツと単パンの人だっている。どうしよう単パンなんてもってきてないぞ。大体タクシーだって初乗り380円だ。関係ないけど。  その日はついたのが夕方だったので石垣島に一泊した。その泊まったホテルの窓を開けてみたらすぐとなりの屋上がすぐ見えた。


  石垣島のビルはコンクリート打ちっ放しみたいのが多い。コンクリート打ちっ放しっていうとすごくかっこいい建築家の建てた家とかこじゃれた飲み屋とか想像するけど、石垣島のそれは直線が曲がってたり(それじゃ曲線か)、窓も曲がってたりしてすごく味のあるコンクリート打ちっ放しなのだ。「てーげー」(大概)って沖縄の人はいうらしけど、そういうちょっといいかげんな感覚が先生はすごく好きである。そういうことは別にしてとなりの屋上は大きな流木が置いてあったり、真ん中の物干しにシーツほしたりしていて、なんだか不思議にのんびりした風景だった。  
  そして次の日は西表島に渡った。早い。西表島で泊まったカンピラ荘にも屋上があった。


  なんだかのっぺりしている。八重山諸島の中では東洋のアマゾンと呼ばれる西表島が最も「オキナワ度」が少ない。自然条件が厳しすぎて近代になるまで人があまり定着しなかったらしい。しかし先生は今回その厳しい自然の中に入っていったのだった。カヌーにのってジャングルの中に分け入ったのだ! うーかっこいー。この写真を見てみて!


  しかし実はこの川は水深50センチくらいしかないのだった。カヌーなんてのる必要なかったかなー。目指すは西表島で最も高い滝である「ピナイサーラの滝」。そこは西表の屋上だあ!   
  でこのヒナイ川をしばらくいくともうカヌーでは前に進めなくなって、岸の木にカヌーをしばりつけて、今度は徒歩で山を登っていく。途中にはでかいサシマスオウの木なんかがあってとっても楽しい。


  先生はもともと植物好きだが、オキナワに来るとみんな野生の木なんでますます嬉しい気分になってくるのだ。そういう中をわっせわっせと歩いていると自分の呼吸が木の呼吸とあって、血が浄化されてくる感じがするんだなあ、不思議だなあ。あしもとにのたくっている根っこも、


  最初は気持ちわるいようなんだけど、じっと見ていると「生きてる!」という感じが伝わってきていとおしくなってきたりするんだよねえ。「木」も生きているんだよねえ。  そして山を登ること30分。とうとうピナイサーラ滝の上につきましたあ! ぱちぱち。滝の上から海を見てると、何にも考えないすがすがしい「無」の気分。


  こうして滝の上=西表島の屋上で、今年はこんなつきぬけた気分をみんなと共有できる仕事をしたいなあ、なんてけなげなことを考えた正直先生なのであった。

Copyright 1999 Koide, Hirokazu
コイデヒロカズ