屋上毎日第十一回[1996年12月26日]
デジタル・ヒーリング・エッセイ
屋上毎日
第十一回 隣の屋上の巻


 明けましておめでとう! といいながらこの原稿を書いている今は12月26日である。つまり年の瀬だ。世間はすごくばたばたしている。私はそんなにばたばたしていないのだが、世間がばたばたしているのでそれに引きずられてなんとなくばたばたしているような気分だ。いやだなあ。  
  しかし私の仕事場である屋上は、すっかり世間と隔絶されているのでとってもゆっくりした気分になる。ゆっくりした気分のまんま昼寝するのが日課になっている。まったく仕事場だか昼寝場だかわかりゃしない。  
  というわけで今回は年賀スペシャル、正直先生の屋上を公開してみることにする。わはははは。  
  まず予備知識を。正直先生の仕事場は3階建てビルの屋上いっぱいに設置されている「プレハブ」である。よく工事現場とかにあるあれだ。地下は大家さんの会社の事務所、1階は車庫、2階は大家さんのお母さん、3階は大家さん一家、が住んでいる。屋上にあがっていくにはえっちらほっちら階段をあがっていく。結構つらい。ふうふういう。ふうふう言って、たどり着くと、こんな扉がある。

 
  まったく事務所の扉とは思えない簡単なスライドドアだ。私は最初入居したとき「こんな貧弱なドアで大丈夫なんかいな」と思ったが、ここまで上がってくる泥棒も少ないので大丈夫なのだった。  
  そしてその扉を開けるとこんな風なよくわからない光景が現れる。


  およそ仕事場ではない。なんていったらいいのかなあ。くつろぎ空間かなあ。「ブッチュくん」でお馴染みタナカカツキくんはここを訪れて「茶室みたいですよねえ」と言っていた。  
 確かに「福」とかいう色紙を飾ってあるし、


 なんだか和風の布を壁に貼ってあったりするし、やっぱりどこか「和」が好きなのかもしれん。  
  こんな風に先生は自分の好き勝手に仕事場を飾って仕事にいそしんでいる(いないことのほうが多いが)のだが、最近はうるさくって仕事どころじゃなかった。なんと細い路地をはさんだ向こう側にビルがたつのだ。高いビルだったらいやだなあ、と思って警備の人に「このビルは何階になるんですかあ?」と聞いたら「3階と聞いていますけど。よろしくお願いします」と言われた。なんでよろしくなのかよくわかんないけど。  
  そんなわけで、先生の屋上の隣には、今屋上の赤ん坊ができつつあるのだった。


 
考えてみたら、屋上も屋上だけでは存在しないわけで、なんだか屋上の父は土地、母は建物、なんてことを考えつつ、となりの屋上の成長を見守っている毎日なのです。

Copyright 1999 Koide, Hirokazu
コイデヒロカズ