屋上毎日第九回[1996年11月4日]
デジタル・ヒーリング・エッセイ
屋上毎日
第九回 小諸東急デパートの巻


 正直先生は信州好きである。これはゴメスの「正直毎日」でも書いたことがあるが、信州の何が好きかというと結局そこにある「山」が好き、という事になるような気がする。「山」を見ているとボーとするのだ。で、9月の22日も「山」を求めて菅平の小屋に行った。またもやボーとするはずだった。  
 
ところがところが、ボーも台風には勝てない。小屋に着いたころから山は土砂降りだー。あーあーどうすんのー明日は関東に台風直撃らしい、うーんうーん困った困った。仕方がないので先生はその翌日朝早く山を出発することにした。あれー山にいたのはたったの18時間だよー。仕方ないか。  
  で雨の中、先生を乗せた車(ボロプジョー・ラリー仕様)は東京へ出発した。これで安心、なはずだった。夕方には帰れる。ところがなんか車の調子がおかしいのである。運転しているは先生の連れ合いは言った。
「あれーあれーエンジンが止まっちゃうー!」  
  むむむむ。山道の上り坂、車はついに止まった。家も何にもない山道である。仕方ないから暫く歩いて人家を探し「すいませーん」とかなんとかいって電話を借り、JAFを呼んだ。親切なおばさんありがとう。どうやら電気系の問題らしい。JAFのあんちゃんは「このまま雨の中を走ったら、エンジンがいつ止まるかわからん」という。さばさばしたJAFのにいちゃんありがとう。しかしだなー、あー困った困った。  
  で、雨が止むであろう翌日まで小諸に泊まることにしたのである。あーまったくもってハプニングの連続だぜー。なんで小諸に泊まるんだー。よくわかんねえやー、とかいいながら小諸ステーションホテルという駅から歩いて0分のところに泊まっちゃったのである。全くなにやってんのかねー先生は。  前置きがものすごく長くなっちゃったがここで屋上の登場である。そうなのだ、ハプニング宿泊しちゃった小諸で屋上に出会ったのである。

 
  それは3連休のせいかなんかしらんがほとんど人気のない小諸東急デパートで先生を待っていた。東急デパートだけではなく小諸の街全体にほとんど人がいなかったなあ。一応昔は城下町だったわけでしょ? なんで人がいなかったの? うーん謎だ。  
  それはともかく東急デパート屋上だ。先生は車故障騒ぎで疲れたので腹がへった。で、何かデパートなら食べれるだろうと思ってそこに入ったのだったが結局食べれるのは一番上の階にある寂れたレストランだけだった。先生は信州ソバ定食の食券を買い、連れは五目焼きソバを頼んでさほどひろくもない座席につこうとしたら、窓の外に屋上は待っていたのである。しかも舞台つきで。

 
  きっと「仮面ライダーショー」とか「ゴレンジャーショー」の小さいバージョン(一人か二人でくるやつ)をこの舞台でやるんだろうなあ。それにしても雨がそぼふる小諸で、しかも誰もいない屋上で、じっと誰かを待っている舞台は結構いい感じがした。  
ふと周りを見回すと「アリスの国」という文字が書かれた小屋もあった。


  ううむ。じゃーここは不思議の国であったり鏡の国であったりするのかもしれないなー。その割には人っこ一人いないけど。不思議の国だからどこかに誰か隠れているのかもしれん。  と思って後ろを振り返ると……いた、そこにいた!  そこにいたのは「きつね」さまだった。


  小諸の不思議の国にはうさぎじゃなくってきつねがいるんだねえ。なんだか空は雨雲でどんより暗いのに、ほのぼのした気分になりましたよ。街には中華料理&フランス料理の店!という訳わかんない組み合わせの店があったりもしたし。  
  そんな訳でいきなり立ち寄った雨の小諸のことを、ちょっと好きになって先生は東京に戻ってきたのでした。東京は晴れでした。

Copyright 1999 Koide, Hirokazu
コイデヒロカズ