屋上毎日第八回[1996年9月27日]
デジタル・ヒーリング・エッセイ
屋上毎日
第八回 箕面観光ホテル


 正直先生はいきなり旅にいくのが好きである。なんだか前もって綿密な計画なんか立てちゃうともうその時点で旅が終わっちゃう気がするよねえ。ま、そういう旅はすごくお金がかかったりするんだが、それでも突然旅に行きたいことはある。  
  9月14日の朝がそうだった。先生が「どっかいきたいなー」とぶつぶつほざいていると、家人が「じゃー大阪の国立民族学博物館に行こうか」と言い出した。実は正直先生は最近パプアニューギニアの仮面のことを勉強していて「生の仮面が見たいナー」とずっと言っていたのだった。  
  で1時間後には新大阪行き新幹線に乗っていた。バカである。  
 大阪に近い人は結構知っているんではないかと思うが、国立民族学博物館は万博記念公園内にある。万博記念公園だから太陽の塔もある。


  これはバカでかい。こんなものを作った岡本太郎も、作らせた日本という国はけっこうおバカさんである。なかなか捨てたもんじゃないぜ、と清々しい気分になって国立民族学博物館に乗り込んだ。  
  で、仮面を見た。


  面白すぎて、泊まってもう一日見ることにした。バカである。  
  ところが世の中は3連休のまっただなかで、いきなりホテルなんぞ空いてそうもない。これがいきなり旅の困ったところである。困ったあげくJTBにかけこんで宿を探してもらうことにした。しかし近場ではなかなかないぞ。 「えー、ちょっと離れているんですけど、箕面というところなら空いてるんですけど」  
  とJTB千里中央店の林さん(実名)は言った。箕面? どこだ? 正直先生はその地を知らなかった。えー少し離れているからいやだなー、と渋っていたら家人が「いーんじゃないのー」とかいうので、なんかこういうことでもなければ箕面という地にいくこともなかろう、といきなり旅の醍醐味を信じて、そこに行くことにした。  
  ところがこれが大当たりだったのである。泊まったところは箕面観光ホテルというところで、建物はぼろい。しかし、もともと正直先生はキンピカホテルはきらいなので、いい感じをだしているこの雰囲気が気に入った。で、国立公園だかの森をバックにした高台の斜面にたっていて、夜景はバツグン。それに人気のないボーリング場とか、誰もいないゲームセンターとか、もう「味」がでまくってて狂喜乱舞したものだった。しかも夜には「ジェニー大西とサボテンブラザース」というサイコーなネーミングのラテンミュージックまであった。行かなかったけど。  
  しかし一番先生が喜んだのはこのホテルの屋上だった。


  現在は非常口への通路になっているらしく、人っ子一人いない。ホテルの物干し場にもなっていてちょっと哀愁さえ感じさせる。


  このホテルは今はぼろになっているけど(失礼!)、実は板倉準三さんという日本の現代建築でも有名な人が設計・監修したホテルなんだな。だから昭和30年代に建てられたのにコンクリートうちっぱなしだし、とってもモダーンしてる。屋上にもその痕跡がのこってて、日本庭園を模した植え込みなんかもある。


  でも、そういう肩肘張ったかっこよさの力がぬけて、いい感じの屋上なんだよなあ。そう森の中の屋上、いいおじいさんになった屋上、って感じかな。正直先生はそこから大阪の秋の空を眺めて、また清々しい気分になったのでありました。


Copyright 1999 Koide, Hirokazu
コイデヒロカズ