屋上毎日第七回[1996年8月23日]
デジタル・ヒーリング・エッセイ
屋上毎日
第七回 お台場


 最近私のお気に入りのスポットといえばなんと言ってもお台場である。東京以外の方はあまりよく分からないかもしれないが、都市博をやるとかやらないとか言っていて結局やらなかったあの埋め立て地だ。東京湾に囲まれたよくわからない場所だ。  
  最初はなんにもなくって、私は「ゆりかもめ」というモノレールと電車のあいのこのようなものに乗ってその終点である駅まで行ってみた。それはまるで火星の宇宙基地ベースに来てるみたいだった(そんなの実際にないけど)。


  とにかく何にもなくってでもすごくハイテクなでかいビルがぽつぽつと立っていて、でも一っ子一人いないというなんだか不思議な場所だった。核戦争後の未来みたいだった。  
  で、それが私はすごく気に入って「あそこはいいよなあタルコフスキーの映画みたいだもん」とか言っていたら「えーいまやオープンカフェとかでおしゃれスポットになってるよーん」とこの春先に言われた。  
  なんだーそれ。しかも砂浜ではビキニ娘が肌を焼いたり、ウインドやってる人がいたりいろいろだという。なんだかやだなあ、オレ。オレは人混み嫌いだし。  
  でも行ってみようじゃないか。そんなおしゃれスポットなんてバカにしてやるわい。  と思っていったらこれが面白かったのである。ミーハーな正直先生だ。  
  ハワイをコンセプトにしたオープンカフェに入り、オープンする前の東京デックスを眺めた。そうそうセガのジョイポリスが入っているテナントビルだ。  
  なんだかいいじゃないか。わくわくするじゃないか。どうしてだろーな、と思ってしばし考えていたら、なんだかこの場所は屋上に似て居るなあ、という結論に達した。まず視線をさえぎるものが少ないのだ。だから空が広い。建物は確かにあるけどちょっと視線を 移せば海だ。その上には東京の空だ。すごくフリーな気分になれる。


  この場所一帯が東京の人のための公共屋上みたいなものかな、だからみんな開放的になって楽しい気分になれるのかあ、明るい顔してるもんなあ、なんてことを正直先生は思ったのだ。  しかしまったくけったくそ悪い車の渋滞と駐車場が空くのを待っている車の行列はなんとかならんか。てなわけで冬のお台場は人も少ないだろうし、今から期待をかけている正直先生なのであった。  

  長いイントロだった。今回は人生相談に入る。福岡県ののりぞうくんからの相談だ。
■屋上人生相談
 正直先生へ  
はじめまして。私は29歳のサラリーマンです。今の会社の仕事は、超面白くて好きです。いわゆる、ディベロッパーというやつです。しかし、給料が超安いのです(可処分年収190万円)。現在、奨学金や車のローンやらで、400万円 くらいの借金があります。拘束時間も長いので、バイトなんか出来そうにあり ません。このままじゃ、お婿にも行けません。  
  思い切って、給料のいい仕事に転職すべきでしょうか? 何でもやれる自信 は、多少あるんですが。今の仕事が面白すぎて、今一歩、踏ん切りがつきませ ん。
福岡県 のりぞう(♂)  

 短刀直入に言おう。  
 面白い以上に素晴らしい事はない! 
だから今の仕事を続けなさい!っていうことですな。あのね世の中の90%くらいの会社員の人って自分の仕事を「面白い」って思ってないと思うんです。こんなこというと「そんな事はない! 私も最近営業がわかりかけてきて、自分がそれに向いているんじゃないかと思うことが多いんです」なんていう人もいるだろう。しかしもう一度胸に手をあてて考えてほしいなあ。自分がその仕事をやってる時、時間も我もわすれて何かをやってる瞬間っあるだろうか?  我を忘れるっていうことは凄く重要だと思うんです。その瞬間は何者にも束縛されてないからね。でもドラッグとか人に危害を加えるとかそういうことで我を忘れるのはダメだぜー。しかしたとえばそういう本当に面白いことがあるとしても、実際に生活はしなければならない。お金は必要だ。それはそう思う。そのジレンマはあるよね。のりぞうくんのそのジレンマを解決せねばならない。それにはこう答えよう。好きなことはあるけど、それではお金があまり入らなかったらどうするか?  お金を使わないようにする  バカみたいな答えかなあ。でもね正直先生も好きなことばっかやってます。でね、実はお金がたくさん入ってくるかといえばそんなに入ってこないんですよ。のりぞうくんは可処分所得190万円ですよね。僕は確か経費とかを覗いた申告分の可処分所得は220万円くらいだったと思いますよ。ちょっと多いだけ。それにね、なんと1100万円も家のローンがあります。その他に事務所代とかいろいろあります。わー書いててくらくなってきたなあ。おれってこんなに儲かってないのに、そんなにお金使っているのか、あー。  
  でもね僕はこう思うんです。
  お金がたくさん入ってイヤなことをやるより、お金が少なくても好きなことをやりたい だから好きなことをやれるんだったら、それで少しでもお金がもらえるんだったら、少しローンを返す期間が長くなったって、いいんじゃないか? もちろん仕事は仕事と割り切って「おれは仕事で金をかせいで、仕事以外の時間はサーフィンにうちこむぜ!」っていう趣味に打ち込む人もいいとは思いますよ。  
  だからのりぞうくん、今の仕事を大事にしなさい。でも面白くて業績もあがってて、会社も潤っているのに不当に給料が安かったら、それはがんがん社長にいいなさい。あー、なんだか労働運動の指導みたくなってきちゃった。正直先生は昔、務めていた出版社で組合もないのに「団交」しちゃったことあるけどね。あははははは。  
  てなわけで、のりぞうくんがんばれ。

Copyright 1999 Koide, Hirokazu
コイデヒロカズ