屋上毎日第三回[1996年5月1日]
デジタル・ヒーリング・エッセイ
屋上毎日
空・自由・魂
第三回 池袋サンシャイン60で宗教体験する


 屋上で仕事する日々もはや6か月目。最近はすごく暖かくなってきたからさぞかし正直先生は屋上で気持ちよかろう……と思う人は大間違い! 実はこの仕事場はプレハブ小屋なもんで、屋根が波形の鉄板なんですよ。だから陽が照ってると、もはや暖かいを通り越して、熱々状態なんです。まだ5月初めだっていうのに、冷房入れたりしてる。これが真夏になったらどうなるんだろうか。冷房をとりつけてくれた人も「冷房二台あっても(注:二台あるんです)ちょっと真夏はまずいかもしれませんねえ」と溜息ついてたしなあ。真冬はものすごく寒かったし、屋上って人に厳しい場所だ、っていうことを知りましたね。    
  さて、そんな人の精神を鍛える場所、屋上をめぐるこの旅ですが、今回は池袋サンシャイン60の屋上に登ってきました。登ったといっても60階までは高速エレベーターだったんですけどね。  
  サンシャイン60って、池袋駅からちょっと離れた場所にドカーンと高い60階建てビルが立てられて、下にはでかいショッピング・モールが出来たり、水族館ができたりしてるんだけど、どことなくさえない。野暮ったいっていうのかなあ。  
  でも僕はそのさえない感じがとっても好きだったりして。奥のイベントホールみたいなところでは、オーデイオ・フェアとか化石フェアとか結構マニアックなイベントをよくやってるし、小さな古本市もやってたりします。  
  そういうショッピング街なんだかイベントスペースなんだか判然としないビルの60階に展望台があるんですね。そして確か去年だったかな、その展望台の上の屋上を解放するようになったんです。予告しておいた東大の安田講堂の屋上はまだ許可がおりないんで、今回は前から登りたかったサンシャイン60の屋上-正式にはスカイポートラウンジ-に行って来ました。   お金を払ってエレベーターに乗り、いざ60階へ。でもいきなりそのエレベーターが変なんですよ。登っている最中に光りが落ちてブラックライトだけになり、エレベーターの中が空だか海だかの中にいるような雰囲気。うーん、なんの意味があるんだか。「お金もらっている以上、楽しませます!サービスします!」って感じですか。いいのに、そんなに気をつかわなくて。  で、あっというまに60階展望台に着き、私はとりあえず非常階段風な階段をとことここ登ってサンシャイン60の屋上にでました。


  あー、でもなんだか屋上ぽくない。半端な広場みたいな感じ。何にもないのなら、なんにもなくていいのに。どうも60階のさらに一階上のところにいるって感じがしないんですよ。  物理的にいえばものすごく高い場所にいるわけです。周囲を見渡すとと、人がありんこみたいに見えるし。でもね、恐さが全然ない。そして開放感もあんまりない。高い鉄柵とアクリル板に囲まれたスペースだし、警備員の人が絶えず見張っているし。


  本当はそこでパンでもかじりたかったんだけど「屋上は飲食禁止」ってことなので仕方なくアクリル板ごしに景色なんか眺めました。しかしご丁寧なことにそのアクリル板に「NHK」とか「新宿高層街」とか書いてあるんですね。


  これを見て「ふーん、あれがNHKなのか」ってみんな確認するのかなあ。よけいなおせっかいのような気もするなあ。  
  何で楽しくないのかなあ。結局、僕が屋上で感じる楽しさって、煎じ詰めると誰にも束縛されない! 自由だ! ってことだと思うんです。これはこの連載で繰り返し言ってますね。前回の高島平の屋上はその自由を奪うために屋上そのものをなくしちゃった。このサンシャイン60は屋上はあるんだけど「さあ、自由にしてください! でも見張ってますから」みたいな感じで「管理された自由」な感じがしちゃったんですよ。  
  そんなことを考えながら、私はボーと地上を眺めていました。で、私は屋上そのものとは別にあることに気がついたんです。それはサンシャイン60の近くには お墓が多いということだったのです。

 
  確かに、サンシャイン60の近くには雑司ヶ谷霊園とか護国寺とかがあって、それは屋上からもなんとなくわかります。緑がこんもりあって、墓石がなんとなく見える。そしてその周囲には小さな小さな一軒家がびっしり並んでいる。


  あーなんだかすごい光景だなあと思いました。お墓も家も地上60階からみれば同じような小さな空間でしかない。でもみんな家を買ったり、お墓を買ったり、そして結局お墓の中に入ったり、そんなことのためにあくせく生きている。そんなことちっぽけなことなのになあ、もっとやらなくちゃいけないことはあるのに、なんてことを考えてしまいました。すると妄想は膨らんで、意識が僕から抜け出し、僕の視線の先にある地上に降り家の間を抜け、墓の間を抜け、さらに粒子になり空間に散乱していく、なんて訳のわからないイメージを想像しました。2001年宇宙の旅のエンディングみたいな。 あらら。そう、僕は60階の屋上の上でいきなり 宗教体験(ここ大きく) してしまったのです。うーん、やばいやばい。最近仕事いっぱいしていたから疲れてるのかなあ。でももしかしたら宇宙から地球を見て宗教的な体験をするのって、これと同じようなことなのかなあ、と思いましたね。  
  そんな訳で私は池袋の空でいきなり宗教体験をしてしまい、ボワーとして階下におりました。60階の展望台のみやげ物屋


ではノモのTシャツとか売っていて、いきなり現実に引き戻され、よかったやっぱここは池袋だ、なんて安心。おまけに1Fまで降りるとどでかいピングーまでいて、


さっきの宗教的神秘体験なんてふっとんでしまいました。
  あーよかったよかった池袋で。しかし僕はひとつのことを思い出したのです。池袋のサンシャイン60って、確か巣鴨プリズン(刑務所)という太平洋戦争の戦犯の人がたくさん収容されていたところの跡に立ってるんですね。だから、脇の公園にはその刑務所内で死んでしまった人とかの石碑があります。幽霊が出ると噂の公園です。うーんサンシャイン60って結構電波度高いスポットかもしれない。  
  そんなことをかんがえながら、私はそそくさとトモス(原付バイク)に乗ってサンシャイン60を後にしたのでした。

Copyright 1999 Koide, Hirokazu
コイデヒロカズ